LED照明・ディスプレイ業界向け開発ストーリー
光の拡散を制御して
省エネに繋げる。
『ナノバックリング』とは、自己組織化※を利用した王子グループ独自の表面微細凹凸構造成形技術であり、凹凸のピッチ、高さを自在にコントロールすることで、透過光の配光を制御することができます。
ナノバックリング光学製品は、複写機スキャナー光源や高速道路トンネル照明に利用されています。
また、応用展開として、ディスプレイやスクリーンに使用すると、不要な方向への配光を抑えることで光のロスを軽減可能なため、車載用ディスプレイに採用され、正面輝度(明るさ)の向上を実現しています。
※自己組織化:従来のリソグラフィーや切削のように、凹凸を1つ1つ形成していくのではなく、対象物全面に自発的に凹凸などが形成される現象。
事例のポイント
- 自己組織化を利用してナノ~マイクロサイズの凹凸構造を形成する当社独自技術
- 光を線状、楕円状に制御可能
- 必要な箇所にのみ配光することで、光のロスを抑え照射効率アップ
開発中に苦労したことについて
世の中の人に見てもらったことで、多くの用途が見つかりました。 『そう言われてみれば……、なるほど!』
ナノバックリングは自己組織化を利用して、ナノ~マイクロサイズの微細凹凸構造を形成することが可能な、王子グループの独自技術です。
2000年代前半、国内主要メーカーが挙って液晶、プラズマ、有機ELといったディスプレイの開発に注力し業界の成長も予想されていた時期に、王子グループでも光学フィルムの開発をしようという機運の高まりを受けて開発を開始しました。
ナノバックリングは、当初、ディスプレイ用の反射防止フィルムへの展開を考えていました。ナノレベルのシワの入ったフィルムをつくれば反射防止効果が得られることがわかっていましたので、フィルムの種類を変えながら、どのようなシワができるのか何度も実験を繰り返し、小さな面積ですが、ラボでの試作にも成功しました。しかし当時の技術では量産化・大型化のめどが立たず製品化が難しいと、一時、研究は行き詰まってしまいました。
ところがある時、光を拡散するフィルムを探していた同僚が「ナノバックリングシートは拡散フィルムに使えないのか?」と尋ねてくれたのです。拡散フィルムに必要な凹凸構造のサイズはナノではなくその1000倍の大きさであるマイクロであり、素材をうまく選択すれば光を拡散するのに適切な大きさのシワが入ったフィルムができることがわかりました。しかも光を一方向にだけ拡散する特殊な機能を備えたフィルムが生まれたのです。シワのサイズが大きくてもよいので、技術的に量産可能ということもわかりました。
そこで15cm×15cm程度の大きさのサンプルシートを持ってディスプレイメーカーを何社も訪問しましたが、残念ながら全く相手にされませんでした。既に生産力競争に入っていたメーカーからすれば、生産ラインが確立されていないフィルムなど共同開発の対象にならなかったのです。
また一方向にだけ光を拡散する機能についても、当時の我々は、具体的な用途を見つけることができませんでした。
こういった状況を打破するために、これまで開発してきた光学フィルムの関連技術情報をまとめてプレスリリースして共同開発のためのパートナーを探すことにしました。すると驚いたことに100社以上から問い合わせや共同開発のオファーが寄せられ、ディスプレイメーカーだけでなくLED 照明や複写機のメーカーからも声がかかりました。我々だけでは思いつかない用途や応用方法がどんどん出てきて非常に新鮮だったと同時に、「そう言われてみれば……、なるほど!」という新たな発見も多かったのです。
地道に研究を続けることも大事ですが、タイミングを見計らったうえで世間に打って出るのも重要です。
開発の成果について
消費電力を変えずに、光の有効利用に貢献します
初めての採用は複写機のスキャナー光源部品でした。LEDは従来広く使われていた白色蛍光灯に比べて、電源投入後照度が安定するまでの時間が短くかつ電力消費量が少ないという特長があるため、近年、特に東日本大震災以降の節電意識の高まりに伴い家庭用の照明器具だけでなく工業製品にも使用が広がっています。スキャナー光源は原稿をスキャンする方向に対して垂直に直線状の光を照射する必要がありますからナノバックリングシートの異方性拡散機能が威力を発揮しました。ナノバックリング゙シートををスキャナー光源部に貼り付けて光源に用いられるLEDの点光源を線光源に変換し、ムラなく、ムダのない光を提供しました。
また、株式会社ネクスコ・エンジニアリング東北様と北明電気工業株式会社様との共同開発で生まれた「トンネル照明LED化ユニット」でも、ナノバックリングシートが採用されています。
ナノバックリングで光を異方性拡散することによって今まで届かなかったところへ光を照射、不要だった対向車線には照射をカット、効率よい配光に貢献しています。
今後の展開ついて
大きな光も小さな光も。まずはご相談ください。
開発当初目指していた、ディスプレイやスクリーン、テレビのような表示装置や投影装置にも、拡散フィルムとして応用できると考えています。
ディスプレイやスクリーンは画面の上下方向と左右方向で必要な拡散性が異なる場合が多く、例えば、車載用ディスプレイのように左右方向の拡散性が上下方向より大きいことが必要とされるような場合、一般的な拡散シートを使用すると左右・上下方向の拡散性が同等となるため上下方向に必要以上に光が拡散されることになりますが、ナノバックリングは左右方向上下方向の拡散性を個別に制御可能であるため、上下方向の不要な拡散(光のロス)を抑えることができ、正面輝度を向上させます。
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